LSD / Long Slow Distance
「解体新書」#08
2種類目は、「LSD (ロング・スロー・ディスタンス / Long Slow Distance)」。
「LSD」という言葉を分解すると・・・
Long … 長く Slow … ゆっくり Distance … 距離
ということで、要するに「ゆっくり長い距離を走る」練習ですね。
3
1 マラソンを走る上での「基礎スタミナ」を養成する
マラソン初心者 : 「基礎スタミナ」を養成するっていうのはジョグと同じ効果だね。
■「LSD (Long Slow Distance)」の主な目的■
1 マラソンを走る上での「基礎スタミナ」を養成する
2 長時間の運動に耐えられる
脚力や
全身のタフさを養成する
毛細血管の発達を促し、酸素運搬能力を高める
【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」
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ウエハラ : そうですね。「基礎スタミナ」を養成するという意味ではある意味ジョグの 延長線上にある練習ですね。
マラソン初心者 : じゃあ、ジョグとLSDって何が違うの??
LSDがジョグと違うところは・・・
■LSD(ロング・スロー・ディスタンス)の特徴■
・ペースが遅い ・走る距離(時間)が長い
以上の点から、LSDはジョグとは別物として分類しました。 LSDは、ジョグよりペースが遅い為、(瞬間的な)トレーニング強度は低く、その分トレーニング時 間が長いといったスタイルです。
そして、ゆっくり長く走るからこそ得られるトレーニング効果があります。それが次の2と3で す。
2 長時間の運動に耐えられる脚力や全身のタフさを養成する
マラソンは42.195kmという長い距離を走るスポーツです。時間にすると6時間から4時間くら い、速い人でも3時間程度は身体を動かし続ける必要があります。
それだけの長時間の運動に耐えられる身体作りがマラソン練習をする上では重要です。 具体的には脚全体の筋力、お尻(臀部)の筋力、腹筋、背筋・・・マラソン後半でもしっかりこれら の筋肉を使い続けられるように鍛えておかなければなりません。
マラソン初心者 : 初マラソンの時は練習で長い距離を走ってなくて、本番レースの30km以降は ほとんど脚が動かず歩きっぱなしだったなぁ・・・苦い経験。
マラソンの30km以降で脚が動かなくなる方は多いですよね。あの足腰が動かなくなる苦しい場面 を作らない為には、練習の時からしっかり脚や全身の筋力を鍛えて、長時間の運動に耐えられる ようにしておかなくてはなりません。
また、マラソンのような長時間動き続けるスポーツでは、内臓を鍛えておくことも重要です。マラ
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ソンレース中に補給食(ゼリーやバナナ)を摂取する方も多いと思いますが、レース後半などで内臓 が弱っていると補給食をしっかり摂取することができません。内臓が弱ってくることで、気分が悪 くなったり、吐き気がしたり、腹痛が起こったりもします。
こういったストレスに対して本番でいきなり対処することはほぼ不可能です。だからこそ、練習の 時からこういったストレスに慣れる、対応できる身体作りが必要というわけですね。
マラソン初心者 : マラソンの後半を疑似体験するような練習が必要ということだね。
3 毛細血管の発達を促し、酸素運搬能力を高める
また、LSDの効果として、「筋肉内の毛細血管を発達させる」ということも挙げられます。 私たちの身体は呼吸をして酸素を取り込み、その酸素を全身の筋肉に運搬します。そうして筋肉細 胞内に届けられた酸素を使って筋肉を動かす(エネルギーを生み出す)のです。
そして、毛細血管は私たちが身体を動かすのに必要な酸素を全身の筋肉に運ぶ役割をしています。 つまり、毛細血管が十分に発達していると、この酸素運搬がスムーズに行われ、効率良く筋肉を動 かし続けることができるというわけです。これを「有酸素的能力」と言ったりもします。
マラソン初心者 : なるほど。「有酸素運動」ってそういうことだったのか! 「LSD」って実際にどうやればいいの?具体的な練習例は?
ウエハラ : LSDは基本的には「ゆっくり長く走る」ということをポイントとして押さえて おけばOKです。
1 距離 2 時間
練習パターンとしては、
1 距離を基準にするパターン (LSD) 2 時間を基準にするパターン (LST)
■「LSD (Long Slow Distance)」の練習例■
を基準にするパターン
→ 20~40km LSD (Long Slow Distance)
を基準にするパターン
→ 120~180分 LST (Long Slow Time)
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が挙げられます。どちらの場合もとにかく長時間身体を動かし続ける事が重要なので、そこのポイ ントを押さえましょう。
また上記では「20~40km LSD」「120~180分 LST」と書いていますが、いきなりこの長距離・ 長時間を走るのは厳しいという方は60分ジョグとかから少しずつ時間と距離を伸ばしていけば OKです。
マラソン初心者 : おや?LSDとLSTってあるけど・・・?
ウエハラ : これは「距離を基準にする」か「時間を基準にする」かという違いだけです ね。
1 距離を基準にするパターン
→ 20~40km LSD (Long Slow Distance)
距離を基準にするLSDの場合・・・ マラソンでは42.195kmを走らなければいけないわけなので、そのマラソンの半分くらいの距離 (21~22km)は何回か走っておきたいですね。
ウエハラ : もちろんマラソン初心者は、いきなり20km以上でなくても構いませんよ。 10km~15kmくらいから徐々に慣らしていきましょう。10km未満はちょ っと短い&スピードを出しすぎてしまう恐れがあるので、LSDとして走るなら 10km以上は確保してみてください。
なお、マラソンにある程度慣れてきた方は30~40kmのLSDをマラソン3ヶ月前くらいから月に1 回くらいの頻度で入れておくと良い感じにタフな身体が出来てくると思いますよ。
2 時間を基準にするパターン (LST)
→ 120~180分 LST (Long Slow Time)
マラソン初心者 : ひえ~、22kmか~ 気が重いなぁ・・・
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時間を基準にするLSTの場合・・・
時間を基準にする場合は、120~180分間くらいゆっくり走りましょう。120分が厳しい場合 は、60分とか90分から始めてもOKです。60分未満だと有酸素的な効果がやや薄いので60分以 上は確保するようにしてみてください。
慣れてくると、一定のペースであれば長く走っても疲れない身体が出来てきます。今走っている距 離に慣れてきたら少しずつ走る時間を伸ばしていきましょう。
マラソン初心者 : 長く走るのは苦手だけど、ゆっくりなら大丈夫かな。まずは60分! 慣れてきたら90分、120分と時間を伸ばしてみよう。
また、マラソン本番を疑似体験したいのであれば、自分がマラソン本番でかかるタイムと同じく らいの時間走ると良いでしょう。
・マラソンを3時間00分で走る人 → 180分(3時間) LST ・マラソンを4時間00分で走る人 → 240分(4時間) LST
しかし、あまりにも長時間走り過ぎると、ゆっくり走っているとはいえ、故障のリスクも高まる ので要注意です。身体とよく相談しながらどれくらいの時間走るかを決めましょう。
ウエハラ :
僕のオススメは時間を基準にするLSTの方ですね。 なぜなら、時間を基準にすると距離やペースを気にする必要がなく気楽だか らです。
LSD/LSTでは、とにかく長時間身体を動かし続ける事がポイントです。逆に、長時間走ることに なるので、飽きない工夫が大事です。気負わず景色の良いコースなど選んで楽しんで走りましょ う。
マラソン初心者 : 距離を基準にするLSDと時間を基準にするLST。 どっちがいいんだろう・・・?
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僕がLSD/LSTをする時は好んで山道を走ります(トレイルランニング)。長時間走っていると、単 調な運動にどうしても飽きてしまいますよね。なので、景色の良いコースを選んだり、ランニング 仲間と一緒に走ったり、知らない道を探検してみたり、楽しむ工夫を加えてみると良いですよ。
また、トレイルランニングやクロスカントリーのように山道・不整地を走ると、ロードで走るよ りも全身を使って走ることになります。よって、筋肉への負担が全身に分散するため、怪我のリス クを減らすことが出来ます。さらに、普段ロードを走っているだけでは鍛えられない身体の部分 も鍛えられるので非常にオススメです。
[LSDのメリット]
●長い距離への身体的・精神的な耐性が身に付く。
●マラソンのレース後半でも動くような脚・身体が作れる。
[LSDのデメリット]
●レースと比べてかなり遅いペースで走ることになるので、LSDをやり過ぎるとスピードが出せな
くなる可能性がある。
●心肺機能的にはラクな練習なので、他の練習やレース本番において心肺機能を十分に追い込めな
くなる可能性がある。
●長時間走る為、いびつなフォームで走り続けていると怪我のリスクが高い。
マラソン初心者 : ジョグと同じでLSDをやり過ぎるとスピードが出にくくなっちゃうんだね。
ウエハラ : はい。同じ練習ばかりに偏っていると、どうしても能力も偏ってしまいます ね。 社会人になってから走り始めた市民ランナーだと、ゆっくり長く走ることが好 きな方も多いと思いますが(僕もそうです。)、もしマラソンで記録を伸ばしたい ならジョグやLSDに加えて、スピード練習も定期的に取り入れましょう。