STEP3. 期分け (ピリオダイゼーション)|ぼっちランナーズ【BRC】

STEP3. 期分け (ピリオダイゼーション)

上原 一真

「解体新書」#23

さて、STEP1~2で「現状」と「目標」のギャップが確認できました。 この後は「期分け(ピリオダイゼーション)」を行います。期分け(ピリオダイゼーション)とは、長 いトレーニング期間を練習の目的ごとに細分化することです。


一口に「マラソン練習」と言っても、あなたが伸ばすべき身体スキルはたくさんあります。 スピード、スピード持久力、スタミナ、筋力・・・

そこで、 「この時期はスピード養成に特化して練習する」 「この時期はスタミナ養成に特化して練習する」

といった具合に、練習目的ごとにトレーニング期間を分割して考えるのです。こうした期分け(ピ リオダイゼーション)を行うことによって、より効果的なトレーニング計画を立てることができま す。

しかし、正直ここは自分でトレーニング計画を立てることにまだ慣れていない方はそれほど意識 しなくてOKです。確かに、どの身体スキルをどういう順番で鍛えた方が良いというのはいろんな 考え方があります。ですが、ここを気にし過ぎるとキリがないので、慣れない内は「全期間通し て、全ての身体スキルをバランス良く鍛える」という意識で大丈夫です。

【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」 2/7ページ

「期分け(ピリオダイゼーション)」の基本的な理解

さて、今回の記事ではSTEP3の「期分け(ピリオダイゼーション)」について解説していきます。


を考えること。すなわち、特定の身体スキルを集中して伸ばす期間を設けることです。

身体スキルを「スピード」「スピード持久力」「スタミナ」の3つに分類する。

「期分け(ピリオダイゼーション)」では、特定の身体スキルを集中して伸ばす期間を設ける訳です が、そもそも“マラソントレーニングで伸ばすべき身体スキル”とはどう言ったものがあるのでしょ うか?


この手の話題になると人によっていろんな考え方があるのですが、僕は“マラソントレーニングで 伸ばすべき身体スキル”は大きく3つに分けられると考えています。それが、

1. 2. 3.

です。細かいところを言えばもっとたくさんあるのですが、ここでは分かりやすく3つに留めてお きます。つまり、「期分け(ピリオダイゼーション)」では、


「この時期は最大スピード養成に特化して練習する」 「この時期はスピード持久力養成に特化して練習する」 「この時期はスタミナ養成に特化して練習する」


といった具合に時期によって鍛える身体スキルを変えていくのです。

Cさん :
なるほど~ でも、なんで時期によって鍛える身体スキルを変えていかないといけないの?

ウエハラ : それは、鍛える身体スキルごとに時期を分けることで、一つ一つの身体スキル 養成に集中して取り組めるからです。 例えば、受験勉強や資格の勉強をしたことがある方は思い出して欲しいのです が、多分多くの人は時期によって勉強の仕方を変えてきましたよね?

期分け(ピリオダイゼーション)

= 「どの時期にどういった練習をすべきか(どの身体スキルを伸ばすべきか)」

最大スピード (VO2max)

スピード持久力 (LT値)

スタミナ

【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」 3/7ページ

「この時期は数学の勉強に力を入れよう」
「この時期は英単語をたくさん覚えよう」
「試験が近くなってから、過去問題をたくさん解こう」

などといった感じです。マラソン練習も同じで、時期によって集中して取り組むべきトレーニング は変わってくるんですよね。

基本は「基礎強化」→「特異的トレーニング」

ここまで「期分け(ピリオダイゼーション)」とは何か、その重要性について書きました。 では、実際に「期分け(ピリオダイゼーション)」はどういう手順で組み立てれば良いのでしょう か。

期分けのやり方についても人によって様々な考え方があるので正解は一つではありません。しか し、一つの汎用的な考え方を示すとすれば以下のようなものが挙げられます。

それが、「基礎強化」→「特異的トレーニング」という流れでトレーニングの期分けを行なうと いう方法です。ケニアで多くの世界トップランナーを指導しているレナート・カノーバ氏もトレー ニング期を大きく「基礎強化(一般的 / General)」と「特異的(Specific)」に分けて考えている ようです。

引用元 : The Science of Running


【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」 4/7ページ

上の図では、左が「基礎強化フェーズ(Base)」、右が「大会(Competition)」を示しています。 つまり、トレーニング期は左から右に進んでいます。そして、縦軸の上方向は「一般的スピード (General Speed)」、下方向は「一般的スタミナ(General Endurance)」を示しています。 要するに、前述した「最大スピード」と「スタミナ」ですね。


そして縦軸の真ん中には「特異的(Specific)」という言葉が書かれています。これは、前述した 身体スキルでいうところの「スピード持久力」に近いだろうと僕は解釈しています。

つまり、トレーニング初期は「一般的な基礎スピードと基礎スタミナ」を強化し、大会が近づく につれて「特異的(Specific)なトレーニング」つまり「スピード持久力」を伸ばすトレーニング に集約させていくというイメージです。


「スピード持久力」とは、レースペースに近いペースを持続させる能力のこと。つまりレースの実 戦に近いペースなので「特異的(Specific)」ということです。「特異的(Specific)トレーニング」 を、受験勉強で例えるなら「模擬試験」みたいなものですね。自分の現状の力が測れる、本番に 近いシチュエーションで練習できる、本番での再現性が高いといった特徴があります。

Cさん : なるほど。受験勉強でも、本番(受験)が近くなってくると「模擬試験」を受け る回数が増えるもんね。 マラソン練習でも本番のレースが近づくにつれて、より実戦的なトレーニング を増やしていかないといけないということか。


「期分け(ピリオダイゼーション)」のパターン3選 以上が「期分け(ピリオダイゼーション)」の基本的な理解になります。要するに「基礎強化」

→「特異的トレーニング」という大きな流れを捉えましょうということです。
 大きな流れさえ捉えておけば基本的にはOKなんですが、一応期分けの例を3つのパターンで紹介

しておきますね。それぞれトレーニング期間を「16週間」として考えてみます。


1 スタミナ → 最大スピード → スピード持久力 最初に「スタミナ強化」→次に「最大スピード強化」→最後に「スピード持久力強化」という流 れのパターンです。僕ウエハラは、このパターンでトレーニング計画を組むことが多いです。


長い距離を走るのが好きな方、スタミナ型のランナーはこのトレーニング計画の組み方がおすす め。自分が好きな、あるいは得意なトレーニングから先に取り組むのが王道です。あるいは、ス

トレーニング計画例)

スタミナ強化期:1~6週目 (6週間)

最大スピード強化期:7~12週目 (6週間)

スピード持久力強化期:13~16週目 (4週間)

【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」 5/7ページ タミナ不足を感じていてスタミナ強化をじっくり行いたい方にもハマると思います。


一般的にスタミナ強化はスピード強化より時間がかかると言われています。時間がかかるものから 先に取り組んでおくのも一つの手です。


2 最大スピード → スタミナ → スピード持久力 最初に「最大スピード強化」→次に「スタミナ強化」→最後に「スピード持久力強化」という流 れのパターンです。


短く速く走るのが好きな方、スピードに自信がある方におすすめ。また、陸上競技の中距離種目 (800m、1500m)、あるいはサッカーなど瞬発系のスポーツ出身の方はこの順番を好む傾向にあ ります。


トレーニング初期の内にガツンとスピードを上げておき、その高いスピード能力を維持しながらス タミナ練習に移行していきます。トレーニング中期以降も全体的な練習の質が高まるので、効率は 非常に良いですね。トレーニング期間があまり長く用意されていない時、短期間で走力をアップ させたい時にもおすすめです。


ただし、トレーニング初期で走り込みも十分に行えていない段階からスピード練習で高い負荷を身 体に与え過ぎてしまうと、怪我のリスクが非常に高くなります。そのため、スピードから仕上げて いく場合は、怪我を避けるようなスピード練習の設計、身体のケアにも十分留意する必要があり ます。


個人的には、走り込みなどで基礎スタミナを備えるからこそ、スピード練習にもスムーズに取り組 めると考えています。なので僕が一般の市民ランナーにアドバイスする時は、トレーニング期間に 余裕があるならば1か3のパターンをおすすめしています。


3 スタミナ・最大スピード → スピード持久力 最初に「スタミナ」と「最大スピード」を同時並行で強化→最後に「スピード持久力強化」とい う流れのパターンです。


前述のレナート・カノーバ氏式のイメージですね。「スタミナ」と「最大スピード」の両極端の身 体スキルを鍛えることから始め、徐々に「特異的(Specific)トレーニング」すなわち「スピード 持久力強化」に集約させていきます。


トレーニング計画例)

最大スピード強化期:1~6週目 (6週間)

スタミナ強化期:7~12週目 (6週間)

スピード持久力強化期:13~16週目 (4週間)

トレーニング計画例)

最大スピード・スタミナ強化期:1~8週目 (8週間)

【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」 6/7ページ

スピード持久力強化期:9~16週目 (8週間)

3のパターンの特徴は「実戦的なトレーニング」を重視していることです。ここで最優先にしてい るのは「いかに速く走れるか(最大スピード)」でもなく「いかに長く走れるか(スタミナ)」でもあ りません。最優先は「いかに速く長く走れるか(スピード持久力)」なのです。


レナート・カノーバ氏はこの考え方を非常に重視しているように見えます。


3のパターンも理屈上はかなり効率的です。 しかし、パターン3のように「実戦に近いトレーニング」を重視するということは“質の高いトレ ーニングを豊富な量こなす”ということです。


マラソン練習において「質と量の両立」は永遠のテーマと言ってもいいくらい難しいものです。 “質の高いトレーニングを豊富な量こなす”そして、それをトレーニング期間を通して継続する。


これは理屈上は正解なのですが、一般の市民ランナーにとっての実行可能性を考えると厳しいも のがあります。日々の高い集中力、良質な休養・栄養、恵まれた練習環境などといった様々な要 因が関係してきます。難易度の高さという観点から言うと、パターン3は「トップ選手/エリート 選手」向けのやり方と言えるかもしれません。

とはいえ、「実戦的なトレーニング」を中心に練習を組み立てることは一般の市民ランナーにと っても非常に効果的です。完璧ではないにしても、概念としてパターン3を意識しながらトレーニ ング計画を組んでみるのも大いに効果があるでしょう。


「期分け(ピリオダイゼーション)」はあくまで意識レベルで良い。 最後に、ここまでがっつり解説してきて言うのもなんですが、「期分け(ピリオダイゼーション)」

はあくまで意識レベルのものです。 今週はスタミナ強化期、来週はスピード強化期、ぶつぶつぶつ・・・などと、ガチガチに期分け

を設定する必要はありません。
 期分けに慣れない内は、とりあえず大枠として「基礎強化」→「特異的トレーニング」の概念を

持っておけば十分です。


また、今週はスタミナ強化期だから、スタミナ練習だけしかしないぞ!スピード練習は一切しな い!という極端な考え方も良くありません。「期分け(ピリオダイゼーション)」はどの身体スキル

The key of training is to increase the SPECIFIC SPEED ENDURANCE, not the speed.

トレーニングの鍵は「特異的なスピード持久力」を向上させることだ。スピードではない。

‒ Renato Canova / レナート・カノーバ

参考:RUNNING SCIENCE


【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」 7/7ページ

を“重視”すべきかというだけであって、一つを重視するあまり他が疎かになってはバランスが悪く なってしまいます。

スタミナ強化期であっても、やはりスピード練習はちょくちょく入れたほうが良いです。また、ス ピード強化期であっても、やはりスタミナ練習は定期的に行ないましょう。最終的には、この辺 りのバランス感覚が鍵を握っています。

1. 「期分け(ピリオダイゼーション)」とは、特定の身体スキルを集中して伸ばす期間を設けるこ

と。

【まとめ】トレーニング計画の作成 #STEP3

期分け (ピリオダイゼーション)

2. マラソン練習で伸ばすべき身体スキルは大きく以下の3つに分けられる。

● 最大スピード (VO2max)

● スピード持久力 (LT値)

● スタミナ

3. 基本は「基礎強化」→「特異的トレーニング」

トレーニング初期は「一般的な基礎スピードと基礎スタミナ」を強化

大会が近づくにつれて「特異的(Specific)トレーニング」つまり「スピード持久力」を伸ばすトレーニングに集約させていく。

ABOUT ME
上原 一真
上原 一真
ランニングコーチ / ぼっちランナーズクラブ【BRC】代表
株式会社SmilesMiles 代表取締役 1992年生まれ、鹿児島県出身。 2005年、中学時代より走り始めランニング歴は17年以上。 1500m~5000mなどのトラック競技から100kmを超えるウルトラマラソン, トレイルランニング, 駅伝など幅広く嗜む。フルマラソンの自己ベストは、2時間34分16秒 (2021年)。 2015年から市民ランナー向けにランニングの指導を始め、サブ4~サブ2時間40分まで様々なレベルの市民ランナーの自己ベスト達成をサポートしてきた。 現在は、オンラインランニングクラブ【ぼっちランナーズ / BRC】を主宰。 「ひとりで頑張るランナーに、もっと強くなるきっかけを与え、自己重要感が高まるランニングを楽しんでもらう」をテーマとして指導に力を入れている。
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