「サブ3を目指す人のトレーニング」と「サブ3“以上”を目指す人のトレーニング」の違い|ぼっちランナーズ【BRC】

「サブ3を目指す人のトレーニング」と「サブ3“以上”を目指す人のトレーニング」の違い

上原 一真

お疲れ様です、上原です。

新年度が始まって1ヶ月以上が経ち、慌ただしい生活も落ち着いた頃合いかなと想像しますが、トレーニングの方はいかがでしょうか?

日本のランニング慣習的に3月までがレースシーズン。そして、4月はオフと位置付けられることが多いのですが、BRCメンバーも基本的には「4月は休養期」として過ごされている方が多いですね。

それから現在、5月の半ばに差し掛かっている訳ですが、4月の休養期を経てボチボチ「基礎トレーニング」を始めていきたい時期であります。

そこで、「基礎トレーニング」に取り組むにあたって、少し頭の中に入れておいてほしい考え方があるので、今回はその話をシェアしたいと思います。

「基礎トレーニング」の意義とは?

まず、そもそもなぜ「基礎トレーニング」が大事なのかという話ですが、これは「期分け」という考え方に基づきます。すでに知っている場合はおさらいがてら読んでください。

期分けとは、「長期的なトレーニング計画に基づき、その時期その時期に応じてトレーニングの内容を最適化することで、最大目標であるレースに向けてピークを作っていくこと」です。

やはりパフォーマンスのピーク(頂点)を作るには、トレーニングを構造的に考える必要があります。
そのために敢えて休養期を設ける時期も必要だし、基礎トレーニングに勤しむ時期も必要だし、レースに実践的(特異的)なトレーニングを消化する時期も必要だし、レース直前にコンディションを整える調整期も必要です。

逆に、一年中毎日毎日同じ練習をしていては、トレーニング全体を通してメリハリがなく、パフォーマンスのピーク(頂点)を作ることができません。
これでは、いつ、どんな部分に力を入れるべきかが曖昧で、結局一年を通して「ほどほどのパフォーマンス」しか発揮できません。

数年間記録が頭打ちとなって悩んでいる方は、ランニングを始めたての頃からやり方を変えずに、一年中ただ同じことを繰り返しているというだけのケースが多いです。
なのでこういった方は、ちゃんと「期分け」を意識してトレーニングに取り組むことで、停滞感を打ち壊すことができる可能性が高いと思います。

期分けの王道

では、期分けについてもう少し具体的に見ていきます。

期分けは、「基礎的(一般的)トレーニング → 特異的トレーニング」へと進めていくのが王道です。

トレーニング初期は「基礎的(一般的)トレーニング」の時期として「基礎スピード」や「基礎スタミナ」をじっくり育てていきます。

そして基礎的(一般的)な能力、つまり「基礎スピード」や「基礎スタミナ」がしっかり醸成された状態で、次第に「特異的トレーニング」へと移行していきます。
この時期は、「基礎トレーニング期に養った基礎スピードと基礎スタミナを統合させていくフェーズ」です。

マラソンは、「42.195kmという距離をできるだけ速いペースで最後まで走り切る」というスポーツですから、スピードだけあってもダメだし、スタミナだけあってもダメ。
スピードとスタミナの両方を高いレベルにする必要があるし、さらにそれらを統合した「スピード持久力」という能力も必要なのです。

しかし、これらの「スピード」「スタミナ」「スピード持久力」をいきなり、すべてバランス良く鍛えるのは難しい。というか中途半端になってしまう。

だからこそ、まずはこれらのスキルを分解して一つずつ丁寧に、集中して鍛える必要があります。

つまり先ほども書いたように、まずは「基礎スピード」と「基礎スタミナ」という素材をしっかり育てて、その後にそれらの素材(基礎スピードと基礎スタミナ)を調理(統合)する「特異的なトレーニング」に移っていくという流れが重要なのです。

・・・と、こんな風に「どの時期はどのスキルを鍛える」という戦略を明確にすることを「期分け」と呼びます。

そして、この期分けによってマラソントレーニングはより構造化され、あなたの目標とするレースに向けて“狙って”ピークを作る(最大パフォーマンスを発揮する)ことができるというわけです。

・・・前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。笑

基礎トレーニングの内容は、走力レベルによって変わるのか?

BRCには、マラソンで「サブ4(4時間切り)〜サブ3(3時間切り)」を目指す方が多く在籍していいるので、僕も基本的にはそういった方々に向けて「サブ4(4時間切り)〜サブ3(3時間切り)を達成するためのアドバイス」をさせていただくことが多いです。

別にサブ4を目指す人も、サブ3.5を目指す人も、サブ3を目指す人も、サブ2.5を目指す人も、マラソンが速く走れるようになる原理は変わらないのですが、やはりその人それぞれのステージによってつまずくところや問題点は変わってきます。

そして、その人が直面している問題が違うのであれば、その人に対してコーチである僕が伝えるべきアドバイスも当然変わってきます。

一般論は一般論として大事ですが、こと指導の現場では一般論が通じない場合がほとんど。
一般論を押し付けるのではなく、目の前にいる相手(つまり、あなた)がどういう問題に直面しているかを理解・想像して個別具体的なアドバイスをすることが重要になります。

だからこそ、僕は常にBRCメンバーのトレーニング内容をチェックして、その上でアドバイスすることを何よりも大事にしているわけですが、とはいえ「これくらいのレベルの人は大体こういう問題に直面する」という共通点や傾向も見えてきます。

つまり、「マラソン完走を目指している人が直面する問題」と「サブ4を目指している人が直面する問題」は違うし、「サブ4を目指している人が直面する問題」と「サブ3を目指している人が直面する問題」も違います。

ただ、その違いを全て解説しようとするとキリがないので、今回はもう少し範囲を限定したいと思います。

今回は、

「サブ3を目指す人のトレーニング」と「サブ3“以上”を目指す人のトレーニング」の違い

についてです。

以下、「サブ3」の表記は、女性の場合「サブ3時間20分」と読み替えてもらって構いません

BRCも2年以上運営を続けてきましたが、みなさん順調に記録を伸ばしており、サブ3を達成する方も続々と出てきました。大変喜ばしい限りです。

ただ、個人的には「サブ3のその先」というのも目指して欲しくて。
というか、タイムそのものよりも「自分がどこまで成長できるか」をとことん突き詰めていって欲しいんですよね。

競技的なランニング・マラソンの醍醐味ってやっぱり「自己成長」という部分だと思いますから、それには終わりはないと言いますか、なんと言いますか。

まあいずれにせよ、BRCには「サブ3のその先」を目指す人もかなり増えてきたので、今回はそういった方も読んでいただければなと。

そして、もちろんまだサブ3を達成していない人も「サブ3を達成するためのヒント」が得られると思いますので、ぜひ最後までお読みください。

サブ3達成者とサブ3未達成者の違いは、スキルの均衡性(バランス)

繰り返しますが、これはあくまで傾向の話です。
ただ、傾向の話とはいえ、これはかなり顕著な傾向なので、ぜひ自分ごととして読んでいただきたいです。

まず、サブ3達成者は、「スキルの均衡(バランス)が良い」です。

例えば、分かりやすく「スピード」と「スタミナ」の2つの変数で考えてみましょう。

サブ3達成者は、スピードとスタミナの比率が「スピード:スタミナ = 7:7」というように、非常にスキルのバランスが取れているケースが多いです。

例えば、「ダニエルズのVDOTの計算」をした時に、「VDOTの計算から予測されるさまざまな距離のレース(5000m~フルマラソン)の各種タイムが実際のタイムとあまり変わらない」という方が多い。

まあ、もちろんランナーによって「スピード型」や「スタミナ型」といった特徴がありますから、ダニエルズのVDOTの基準に絶対合わせないといけないということはありません。

ですが、それでもVDOTの基準があることで自分の「ランナーとしての特徴(スピード型かスタミナ型か)」の判断に役立ちますし、もしあまりにも自分がVDOTの基準からズレているのであれば、それは自分の「スキル(スピード能力とスタミナ能力)の不均衡さ」を疑うことができます。

補足

VDOTの予測タイムは当てにならないと否定する人もいますが、そもそも基準がなければ物事の良し悪しは測れません。

なので、自分でVDOTよりも精度の高い予測値を算出できる優秀な人でない限りは、まずはVDOTの予測値を参考にするのが良いと思います。

ではその一方で、まだサブ3を達成していない人はどういう傾向にあるのか。

予想はできるでしょうが、サブ3未達成者は、「スキルの均衡(バランス)が十分ではない」場合が多いです。

先ほど同様、スピードとスタミナの2つの変数で考えると、「スピード:スタミナ = 7:4」といったようにスキルの均衡(バランス)が取れていない。

スピードだけ見れば、サブ3達成者と同じ水準(=7)です。
でも、そのスピードに対してスタミナが著しく低い(=4)。

このタイプのランナーは、1000mのインターバルはかなり速いペースでこなすことができているし、その練習の結果だけ見れば十分サブ3できるスピードはある。
でも、スタミナがないから、実際にマラソンを走ると後半失速してサブ3できない。

逆もまた然りで、「スピード:スタミナ = 4:7」という方も多いですね。

スタミナだけ見れば、サブ3達成者と同じ水準(=7)ですが、そのスタミナに対してスピードが著しく低い(=4)。

このタイプのランナーは、月間走行距離も非常に多いし、LSDや30km走もたくさんこなしているから、マラソンでも後半失速することはあまりない。
でも、スピードがないから、平均レースペースが上がらずサブ3のペースでは42.195km走り通せない。

要するに、どちらのケースにおいても、スピード能力とスタミナ能力が釣り合っていないのです。

「スキル(スピードとスタミナ)の均衡(バランス)が取れているかどうか」

これがサブ3達成者とサブ3未達成者の大きな違いの一つだと、まずは理解してください。

では、ここまでを踏まえて、「サブ3を目指す人」と「サブ3“以上”を目指す人」それぞれに向けて基礎トレーニングにおいて意識してほしいことをお伝えします。

サブ3を目指す人は、まずスキルの不均衡を解消すべし

サブ3を目指している人は、まずは「スピードとスタミナの均衡(バランス)を整えること」を最重要視して基礎トレーニングに取り組んでください。

スピード能力に偏りがある方は、そのスピード能力の水準と釣り合うようにスタミナ能力を高めていく。

それに対して、スタミナ能力に偏りがある方は、そのスタミナ能力の水準と釣り合うようにスピード能力を高めていく。

正直、3時間10分台〜3時間1桁台で足踏みしてしまっているランナーにとっては、これだけでサブ3は達成できるケースがほとんどです。

「マラソンは総合力だ」と僕は常々言っていますが、様々なスキルをバランスよく高めていくことがマラソンの記録向上の鍵です。

で、その観点から言うと「不足しているスキルにこそ伸び代がある」ということになります。

だから、スタミナ不足を感じている人はやはり「スタミナ強化」に集中すべきだし、スピード不足を感じている人は「スピード強化」に集中すべきです。

もっと言えば、すでに伸ばし切っている能力をさらに伸ばすよりも、まだ伸ばし切っていない能力を伸ばす方が効果が出やすいので、そう言う意味で投資対効果も高い。

ただ、不足しているスキルを鍛えるというのは、もしかすると、苦手なトレーニングと向き合うということでもあるかもしれません。

でも、その苦手と向き合わない限りはブレイクスルーは見込めないので、ぜひこれからの基礎トレーニングで少しずつ「スキルのバランスを整える」ということにチャレンジして欲しいなと思います。

「スピード:スタミナ = 7:4」が「スピード:スタミナ = 7:5」になるだけでもだいぶ変化を感じられると思いますし、「スピード:スタミナ = 7:6」まで持っていくことができれば、これでもサブ3達成できる可能性はあります。

苦手を苦手のまま目を背けるのではなく、そこに成長のチャンスがあると思えば、きっと前向きに取り組めるはずです。

サブ3“以上”を目指す人は、スキルの均衡を保ったままキャパシティを拡大すべし

では、お次は「サブ3のその先」を目指す人に関してですが、サブ3を達成するレベルの人はすでに「スキル(スピードとスタミナ)の均衡は取れている」という方が多いです。

先ほどからの例で言うと、「スピード:スタミナ = 7:7」の状態ですね。

で、この「スピード:スタミナ = 7:7」の状態の人が次に何を目指していくかというと、

「スピード:スタミナ = 8:8」

これです。

さらには、「スピード:スタミナ = 9:9」、「スピード:スタミナ = 10:10」とスキルの均衡を保ったまま全体のレベル感を高めていきたい。

サブ3未達成者に関しては、「苦手分野を伸ばして、得意分野の水準に合わせていく」というスタンスを大事にして欲しいのですが、サブ3達成者に関しては「バランス良く自分のキャパシティを拡大する」というイメージで基礎トレーニングに取り組んで欲しいのです。

サブ3“以上”を目指す段階になると、スピード養成にしても、スタミナ養成にしても、これまでと同じような水準でトレーニングするのではなく、「一段階上のレベル」でトレーニングをこなせるようにならないといけません。

だからこそ、レベルが上がれば上がるほど「いかに基礎トレーニングで自分のキャパシティを拡大させていくか」が重要になりますし、この基礎構築期でしっかり基礎スピードと基礎スタミナを鍛えることが、特異鍛錬期の質の向上、ひいては、秋冬以降のマラソンレースでの飛躍につながります。

【まとめ】
サブ3を目指す人は、「アンバランスの解消」が鍵。
サブ3“以上”を目指す人は、「基礎能力の底上げ」が鍵。

というわけで、今回のまとめ。

まだサブ3を達成していない人の傾向としては「スキル(スピードとスタミナ)の均衡(バランス)が取れていないこと」がある。
だから、まずはその不均衡(アンバランス)を解消するだけで、かなりの飛躍が見込めます。

独学でトレーニングに励んでいる方はそもそも「スキルを分解する」という発想がない方も多いので、毎日ただなんとなく走ったりとか、特に目的もないままトレーニングをしたりしがちです。

しかし、それでは気付かぬ間に、自分の好きなトレーニングばかりしてしまい、惰性で同じようなトレーニングを続けてしまった結果「スキルの不均衡」が発生してしまいます。

そして、その「スキルの不均衡」にも気付かぬままトレーニングを続けると、「頑張っている割には記録が伸びないな」という頭打ち感がやってきます。

・・・というケースは非常に多いので、これからサブ3に向けて頑張るという方は、ぜひとも「スキルの均衡を取る」という視点を持ってトレーニングに励んでください。本当にそれだけでかなり変わりますから。

そして、サブ3“以上”を目指す方に関しては、すでに「スキルの均衡」は取れている方がほとんどなので、そこからは「スキルの均衡を保ったまま、キャパシティを拡大させていくこと」が求められます。

このレベルになってくると、「いかに基礎スピードと基礎スタミナを磨いていくか」が鍵を握ります。
なので、何か目新しいことをやるというよりは、より一層基礎基本に忠実にやっていくことが重要です。

僕も陸上強豪校や実業団の練習内容を見聞きしたことがありますが、彼らが方法論として何か特別なことをやっているということはありません。
世界トップレベルのランナーの練習内容を見ても、僕らが知らない練習をしているわけでもないし、魔法の練習メニューがあるわけでもありません。

では、なぜ彼らは速いのか?

それはただ、彼らが「基礎基本を“とんでもないレベルで”徹底しているから」なのです。

・・・なんと残酷な真実。

でも、希望ある真実でもあります。
だって、そんな簡単な理屈で速くなれるんですから。
(まあ、理屈は簡単でも実際にやるのが難しいですけどね…)

で、何が言いたいかというと「どこまで行っても基礎基本は大事」ということです。

むしろ、レベルが高くなればなるほど、基礎基本に立ち返ることの重要性は増します。
それこそサブ3“以上”を目指す段となれば、表面を取り繕うだけで通用する世界ではありませんからね。「真の底力」が求められます。

てな感じで、結局どんなレベルであっても同じ理屈でトレーニングするわけなんですが、それぞれのレベルによって直近で解決すべき問題が違うことがあります。

なので、きちんと自分の今の状況を分析して、どういったトレーニングを組み立てるべきか、日々考えながら「意味のあるトレーニング」を着実に積み上げていって欲しいと思います。

それでは、本日はこの辺で。

最後までお読みいただきありがとうございました!

上原 一真
上原 一真
ランニングコーチ / ぼっちランナーズクラブ【BRC】代表
Profile
株式会社SmilesMiles 代表取締役
1992年生まれ、鹿児島県出身。

2005年、中学時代より走り始めランニング歴は20年以上。ランニング指導歴は10年以上。

1500m~5000mなどのトラック競技から100kmを超えるウルトラマラソン, トレイルランニング, 駅伝など幅広く嗜む。
フルマラソンの自己ベストは、2時間34分16秒 (2021年)。

2015年から市民ランナー向けにランニングの指導を始め、サブ4~サブ2時間35分まで様々なレベルの市民ランナーの自己ベスト達成をサポートしてきた。

現在は、オンラインランニングクラブ【ぼっちランナーズ / BRC】を主宰。
「ひとりで頑張るランナーに、もっと強くなるきっかけを与え、自己重要感が高まるランニングを楽しんでもらう」をテーマとして指導に力を入れている。
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