【マラソン】ランニングエコノミー(経済性)とは?具体的なトレーニング方法も解説
『ランニングエコノミー (経済性)』ってよく聞くけど、 小難しくてイマイチよく分からない…なぜそんなに大事なんだろう?
『ランニングエコノミー (経済性)』を向上させるにはどうすれば良いの? 具体的にどんな練習をすれば良いの?
本記事は、このような疑問を持っている方に向けた記事です。
『ランニングエコノミー (経済性)』は、「マラソンの走力を決定する3大要素」の一つであり、この『ランニングエコノミー (経済性)』を向上させることで、あなたの走力は確実に高まります。
マラソン初心者の内は、ただ何となく走っているだけでも、ある程度のところまでは記録は伸びていきます。
が、何の戦略もないままに練習していては、どこかで成長が停滞してしまいます。
「効率よく走力を向上させるためには、何を意識してマラソントレーニングをすれば良いのか?」
その答えの一つが『ランニングエコノミー (経済性)』です。
あなたのマラソントレーニングを一歩先のステージに進めていきたいなら、ぜひこの記事を最後まで読んでいってください。
- マラソントレーニングにおける「ランニングエコノミー (経済性)」の重要性が分かる。
- なぜ「ランニングエコノミー (経済性)」を向上させると、マラソンの記録向上に繋がるのかが分かる。
- 「ランニングエコノミー (経済性)」を向上させるために、具体的にどんな練習をすれば良いかが分かる。
・ランニング歴20年以上
・ランニング指導歴10年以上
・指導累計600名以上
多くの市民ランナーをマラソン・サブ4〜サブ3に導いてきた僕が解説します。
『ランニングエコノミー (経済性)』とは?
『ランニングエコノミー (経済性)』ってよく聞くけど、 小難しくてイマイチよく分からない…なぜそんなに大事なんだろう?
まず定義から言うと
「少ないエネルギーでいかに速く長く走れるか」
という効率性のことです。
まあ、名前の通りですね。しかし、その内容を細かく見ていくとかなり複雑です。 なので、なるべく分かりやすく分解して解説していきますね。
『ランニングエコノミー (経済性)』は
3つの要素から成り立つ。
『ランニングエコノミー (経済性)』は非常に多くの要素が複雑に絡み合って成り立っています。 そのため、解説するのもかなり難しいのですが、なるべく分かりやすく体系的にまとめたいと思 います。
まず、『ランニングエコノミー (経済性)』の要素を大きく3つに分けると以下のように分類することができます。
ランニングエコノミーの考え方に関してはいろいろな意見があるのですが、僕的に一番しっくりきているのがアスリートLabの弘山勉さんが書いている記事群です。
こちらを参考にしつつ、僕なりの解釈も交えて本記事では簡潔にまとめていこうと思います。
この3要素については、それぞれの解説を後半部分に書いています。
『ランニングエコノミー (経済性)』が向上すると
効率良く(ラクに)マラソンを走ることができる。
VO2maxが大事っぽいということは何となくわかったけど・・・ 『VO2max(最大酸素摂取量)』が向上したらどうなるの?
簡潔に言うと、
『ランニングエコノミー (経済性)』が高くなる
→ エネルギーロスを減らして走ることができる。
→ 少ないエネルギーで、速く長く走ることができる。
→ 効率良く(省エネで)マラソンを走ることができる。
という感じです。
割とフワッとした概念だな〜と思うかもしれませんが、確かにフワッとしてますね。
『ランニングエコノミー (経済性)』は様々な要素が相互に関係し合っているので、やや難解では ありますが、実際のランニングと重ね合わせながらイメージを鮮明にしていくのが大事です。
また、ここで気を付けておきたいのは「速く」そして「長く」走るという部分。結局、マラソン は「速く走ること」と「長く走ること」を両立させるスポーツです。しかし、この両立が非常に 難しい。
なぜなら、「速く走るための身体機能」と「長く走るための身体機能」は大きく異なるからで す。これらは、もはや対極にある身体機能と言っても過言ではありません。
例えば、短距離選手と長距離選手の身体つきの違いを見れば一目瞭然ですが、明らかに身体つきが違いますよね。
短距離選手は筋骨隆々で「速く走るための身体機能」に優れています。 その一方で、長距離選手は細身で「長く走るための身体機能」に優れています。
しかし、長距離選手だからと言って、ただ長く走れれば良いというわけではなく、5km・10km・ハーフマラソン・フルマラソンといったそれぞれで「定められた距離をいかに速く走れるか」といったことも重要になってくるわけです。
この「速く走る能力」と「長く走る能力」という、矛盾する2つのスキルのバランスをとっていくことが『ランニングエコノミー (経済性)』を高める上では重要です。
この考え方は、後々の章でも関わってくるので頭の中にしっかり留めておいてください。
ランニングエコノミーを向上させるとラクに速く長く走ることができるのね!
『ランニングエコノミー (経済性)』の3つの要素と、それらを向上させる為の具体的な練習は?
『ランニングエコノミー (経済性)』を向上させるにはどうしたらいいの?
『ランニングエコノミー (経済性)』は3つの要素から成り立ちます。
それらの3要素は以下の通り。
↓↓↓
この3要素をそれぞれ深掘りしていきたいと思います。
『エネルギー代謝』的要素
まずは『エネルギー代謝』的な要素について。
『エネルギー代謝』というテーマは、それだけで何記事も書けてしまうくらい濃密なテーマなんですが、ここでは「ランニングエコノミー (経済性)」という切り口からポイントを絞って解説し ます。
(1)脂質代謝の割合を増やす
→少ないエネルギーで長時間(長距離)走れるようにするため
(2)糖質代謝はなるべく節約する。
→糖質はスピードが発揮できるが長続きしないため
「糖質代謝」…? 「脂質代謝」…?
よくワカラナイ…
そもそも『エネルギー代謝』は何ぞやというと、
代謝 : 「糖質」や「脂質」などを燃焼させてエネルギーを生み出す身体活動のこと
です。
例えば、人間が生命を維持するためには、心臓を動かし続けなければなりません。また、肺を動 かして呼吸し続けなければなりません。そして、歩く時にも話す時にも笑う時にも歌う時にも筋 肉を動かさなければなりません。
それらの活動をするためにはもちろんエネルギーが必要なので、僕達の身体は糖質や脂質を代謝 してエネルギーを生み出すのです。このように生命を維持するため、日常生活を行うためのエネ ルギー代謝を「基礎代謝」と言います。
その上で、僕達ランナーは「走る」という、なかなか激しめな運動を行うわけですから、より多くのエネルギーが必要になります。
そのため、我々長距離ランナーは、糖質や脂質といったエネルギー源をいかに効率よくエネルギーに変換していけるかという能力が重要というわけです。
なお、糖質代謝と脂質代謝はそれぞれ以下のような特徴があります。
●糖質代謝 :
運動強度が高い(速いランニングペース)時に利用される。
1gにつき4kcalのエネルギーを生み出す。
●脂質代謝 :
運動強度が低い時(遅いランニングペース)時に利用される。
1gにつき9kcalのエネルギーを生み出す。
さて、上記の2つ、糖質代謝と脂質代謝を比べてみると、どちらが経済的(効率的)ですか?
同じ1gで、 糖質は4kcal、脂質は9kcalを生み出せるから、「脂質代謝」の方が経済的!
その通りです。
少ない量で多くのエネルギーを生み出せる脂質の方が、『ランニングエコノミー (経済性)』の観点から言うと優秀なエネルギー源であると言えます。
したがって、『ランニングエコノミー (経済性)』を高める上では、
(1)脂質代謝の割合を増やし
(2)糖質代謝はなるべく節約する
ということがポイントとなります。
では、上記(1)(2)を実現するための具体的な練習方法としては・・・
(1)脂質代謝を高める
→空腹ランニング
(2)糖質代謝の節約
→閾値トレーニング(LT値周辺のランニングペースで走る)
などが挙げられます。
空腹ランニング
「空腹ランニング」とは、「空腹時(糖質が枯渇した状態)にゆっくり走ること」です。
空腹時はそもそも身体に糖質が少ない状態。
糖質が枯渇した状態で走るわけですから、我々の身体は脂質(体脂肪)を代謝してエネルギーを生み出していくしかありません。
脂質代謝をするしかない状況でトレーニングするということですね。
ちょっと強引な手法に思えるかもしれませんが、これにより脂質を効率的に燃焼させる機能が高 まります。
いわゆる「脂肪燃焼効果が高い」というやつです。
ダイエットしたい女性が飛びつきそうなフレーズですが、確かに「空腹ランニング」は、体脂肪を減らすという目的でも有効です。
なお、ここで気をつけておきたいのは、空腹時に走って脂質代謝を働かせたい時は「ゆっくり 走る」ということ。
脂質代謝エネルギーは、低強度の運動(ゆっくりペースで走るランニング)を持続させる際に使われやすいという特徴があります。
逆に、脂質代謝エネルギーは、瞬発的なパワーを出すには不向きで、スピードが速すぎるランニングにおいては脂質は使われにくいのです。
その一方で、速いスピードを出して走る練習においては、糖質代謝エネルギーが有効です。
例えば、スピード練習の前は、ご飯やパンなどの炭水化物(糖質)をしっかり補給した方が質の高いトレーニングをこなすことができるでしょう。
したがって、いつでも「空腹で走るのが正解」というわけではありません。
練習の目的、練習の内容によって摂るべき栄養も変わってきます。
閾値トレーニング
「脂質代謝の割合を高める」ということはつまり「むやみやたらに糖質代謝をしない」「糖質代 謝を節約する」ということにも繋がるわけですが、そのためにはどうすればいいのでしょうか。
人間は運動強度が高くなると(走るペースが速くなると)、糖質代謝の割合が増えていきます。
「運動強度が高い(速いランニングペース)」とはどれくらいのラインを指すのかというと、「LT値 (乳酸性作業閾値)」が一つの目安になります。
脂質代謝と糖質代謝の割合は運動強度が高まるにつれて徐々に変化していくものなので、完全に代謝の種類が切り替わるというわけではないのですが、「LT値 (乳酸性作業閾値)」を超えて呼吸がゼーハー言い始めると、その時点からかなり糖質を使っている状態と思っていいでしょう。
であるならば、この「LT値 (乳酸性作業閾値)」引き上げていくトレーニング。
つまり「閾値トレーニング」が重要になってくるわけです。
別の言い方をすれば、糖質代謝が激しくなり始めるタイミングを引き上げていく。
そして、速いペースで走っても脂質代謝で賄えるようにしていくということです。
『筋肉・循環器』的要素
続いて『筋肉・循環器』的な要素について。 筋肉や循環器(心臓や血管など)も「ランニングエコノミー (経済性)」を高める上では見逃せない要素です。
(1) 速筋と遅筋をバランス良く使えているか
(2) 心拍数と心拍出量 (少ない心拍数で多くの血液量を全身に送り出す力)
(3) 筋肉中の毛細血管がどれだけ発達しているか (酸素運搬能力)
速筋と遅筋をバランス良く使えているか
筋肉は主に2つに大別されます。
●速筋 :
瞬発的で大きな力を発揮する筋肉。
ミトコンドリアが少なく、グリコーゲンが多く貯蔵されており白っぽいため「白筋」とも呼ばれる。
●遅筋 :
持続的で小さな力を発揮する筋肉。
ミトコンドリアが多く、赤っぽいため「赤筋」とも呼ばれる。
マラソンなどの長距離走および耐久(エンデュランス)スポーツでは、主に「遅筋」が使われます。 小さなパワーを持続的に発揮することに長けた筋肉ですね。
「遅筋」の方がゆっくり長く走るための筋肉だから、マラソンランナーは「遅筋」だけ鍛えておけばいいのかしら?
いいえ。そう考えたくなるのも確かに分かるんですが、実は違うんです。
先述した通り、マラソンは「ただ長く走るだけのスポーツ」ではなくて、「42.195kmという定められた距離の中でいかに速く走るか」というスポーツなんです。
「ゆっくり長くは走れるけど、スピードが出ない」という市民ランナーの方は多いですよね。
「マラソン練習で長い距離ばかり走っていたら、スピードが出なくなった」という方もよく見かけます(かく言う僕もそうでした)。
これは「遅筋」ばかり鍛え過ぎた結果、「速筋」が衰えた(ミトコンドリアが減った)ためだと考えられます。「速筋」がうまく力を発揮できないということは「スピードが出ない」ということに直結します。
ただ長く走ることだけが目的であればそれでも問題ないのですが、これを読んでいる方はある程 度タイムを狙いたいという方のはず。
もしあなたがタイムを狙って走るならば「その目標タイムを達成できるためのスピード」というのも必ず意識しなくてはなりません。
“遅筋”だけでなく、スピードを出すために“速筋”も鍛えましょう!
速筋と遅筋をバランス良く鍛えるには、
LSDや普段のジョグの後に、流し(Wind Sprint)を数本入れて速筋に刺激を与える
などといった工夫が有効です。
速筋と遅筋をどのようなバランスで鍛えるべきかということに関しては、絶対的に正しいバランス比を定義することは難しいのですが、「あれ、最近スピード出なくなったなぁ」と感じた時は 速筋のトレーニング不足を疑ってみると良いかもしれません。
心拍数と心拍出量
『ランニングエコノミー (経済性)』を考える上では、「心拍数」と「心拍出量」も重要な指標です。
●心拍数 :
一定時間内に心臓が拍動する回数 (一般的には1分間で測る。単位:bpm)
●心拍出量 :
心拍数×一回の拍出量
僕達の体内では心臓が「全身に血液を循環させて、酸素や身体に必要な栄養素を届ける」というとても重要な役割をになっています。
さらに、ランニング中はその血液循環をさらに活発にさせる必要があるため、この循環器機能を いかに効率良くしていくかが『ランニングエコノミー (経済性)』を高める上では重要です。
ここでのポイントは「いかに少ない心拍数で、多くの血液量を拍出できるか」ということ。
「全身の血液循環の効率が良い」「血の巡りが良い」と言い換えても良いでしょう。
少ない心拍数でも(心臓の負担が少ない状態でも)全身に酸素や栄養素が十分に供給されて、マラソンにおいても良いパフォーマンスが期待できます。
心肺機能(少ない心拍数で多くの血液量を全身に行き届かせる力)を高めるには、
・練習の頻度を増やす
・日常生活での活動時間を長くする
などといったことが有効です。
なお、健康な成人の安静時心拍数(脈拍)は「60〜100回/分 (bpm)」とされています。
■参考: 心拍数 (厚生労働省)
おそらく、マラソンでサブスリーを狙うレベルの方はこの平均値を下回っているでしょう。 一概には言えませんが、マラソンでサブスリーを目指す方であれば、安静時心拍数50回/分 (bpm)を目安にしておくと良いかもしれません。
しかし、「心拍数」だけ低くても「心拍出量」が少なければ危険です。それはつまりトータルの 血液循環量が少ないということであり、これは「ただ徐脈なだけ」です。重大な心疾患の可能性もあるので要注意です。
筋肉中の毛細血管がどれだけ発達しているか(酸素運搬能力)
次は心臓から送られてきた血液を受け取る筋肉側の機能の話です。
腕も脚も内臓も、人間の体内のあらゆる筋肉には毛細血管が張り巡らされていてこの毛細血管を通じて血液は全身の隅々まで循環させられます。そして、この毛細血管はトレーニングにより増減します。
言わずもがな、毛細血管は多い方が良いです。
毛細血管を増やして酸素運搬能力を高めるには、
・LSD (ロング・スロー・ディスタンス / Long Slow Distance)
・LSD (ロング・スロー・タイム / Long Slow Time)
など、ゆっくり長く走る練習が有効だと言われています。
『フォーム』的要素
最後は『フォーム』的な要素について。
本質は、「エネルギーロスの少ないフォーム」が経済性の高いフォーム。
いわゆる「ブレーキのかからない走り」「滑らかな重心移動」といったもの。 では、経済性の高いフォームとして、もっと具体的に説明すると以下のようなものが挙げられます。
(1)地面からの反発を生かすフォーム
(2)ストライドとピッチが適切なバランスに保たれたフォーム
(3)上半身と下半身とがスムーズに連動しているフォーム
上記はほんの一部ですが、とにかく「エネルギーロスの少ないランニングフォーム」を追求して いきましょう。
それぞれのフォームについての細かい説明をここでは割愛しますが、また別の講座にて解説しま す。ここでは、「エネルギーロスの少ないフォームがランニングエコノミーを高める上では大事 なんだなぁ」と何となく理解しておけばOKです。
『ランニングエコノミー (経済性)』を測定するのは難しい。
自分の『ランニングエコノミー (経済性)』を測定することってできるの?
●『VO2max (最大酸素摂取量)』
●『LT値 (乳酸性作業閾値)』
上記の能力に関しては、その指標として分かりやすい数字を測定することができました。しかし、『ランニングエコノミー (経済性)』に関しては残念ながら、分かりやすい指標がなく測定するのは困難です。
なぜなら、いろんな要素が複雑に絡み合って成り立っているので単純な数字では表せないからで す。
ただし、『ランニングエコノミー (経済性)』は、概念として非常に重要なものであることに変わりはありません。
『ランニングエコノミー (経済性)』の概念を知っていれば、練習計画の組み立てる際やフォーム の改善の際に大きく役立ちます。
◆まとめ◆
『ランニングエコノミー (経済性)』
- 「少ないエネルギーで、いかに速く長く走れるか」という効率性のこと。
- 「エネルギー代謝」「筋肉・循環器」「フォーム」の3要素から成り立ち、それぞれが複雑に関係し合っている。
- ランニングエコノミーを向上させるのに重要なポイントは
● 脂質代謝を促し、エネルギーの代謝効率を高める。
● 速筋と遅筋をバランス良く鍛え、速く長く力を発揮できるようにする。
● エネルギーロスの少ないフォームを身につける。
それでは。
あなたのランニングライフがより充実したものになることを心より願っています。
ぼっちランナーズ【BRC】
代表 上原一真
■マラソンの走力を決定する3大要素
まとめ記事:
マラソンの走力を向上させる3大要素とは?【トレーニングの本質】
詳細記事:
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