【マラソン】LT値(乳酸性作業閾値)とは?具体的なトレーニング方法も解説
『LT値(乳酸性作業閾値)』ってよく聞くけど、 小難しくてイマイチよく分からない…なぜそんなに大事なんだろう?
『LT値(乳酸性作業閾値)』を向上させるにはどうすれば良いの? 具体的にどんな練習をすれば良いの?
本記事は、このような疑問を持っている方に向けた記事です。
『LT値(乳酸性作業閾値)』は、「マラソンの走力を決定する3大要素」の一つであり、この『LT値(乳酸性作業閾値)』を向上させることで、あなたの走力は確実に高まります。
マラソン初心者の内は、ただ何となく走っているだけでも、ある程度のところまでは記録は伸びていきます。
が、何の戦略もないままに練習していては、どこかで成長が停滞してしまいます。
「効率よく走力を向上させるためには、何を意識してマラソントレーニングをすれば良いのか?」
その答えの一つが『LT値(乳酸性作業閾値)』です。
あなたのマラソントレーニングを一歩先のステージに進めていきたいなら、ぜひこの記事を最後まで読んでいってください。
- マラソントレーニングにおける「LT値(乳酸性作業閾値)」の重要性が分かる。
- なぜ「LT値(乳酸性作業閾値)」を向上させると、マラソンの記録向上に繋がるのかが分かる。
- 「LT値(乳酸性作業閾値)」を向上させるために、具体的にどんな練習をすれば良いかが分かる。
・ランニング歴20年以上
・ランニング指導歴10年以上
・指導累計600名以上
多くの市民ランナーをマラソン・サブ4〜サブ3に導いてきた僕が解説します。
『LT値(乳酸性作業閾値)』とは?
『LT値(乳酸性作業閾値)』とは、血中の乳酸濃度が急激に上昇するポイント
『LT値(乳酸性作業閾値)』ってよく聞くけど、 小難しくてイマイチよく分からない…
まず定義から言うと
「血中の乳酸濃度が急激に上昇するポイント」
※ LT = Lactate Threshold
要するに、「血中乳酸濃度が急上昇するポイントがある」ということを押さえておけばOKです。そして、この「血中乳酸濃度が急上昇するポイント」が『LT値(乳酸性作業閾値)』というわけです。
ちなみに、LT値は血中乳酸濃度の数値で表すと「2〜4mmol/l」に相当します。
上記の画像で「LT1」と「LT2」という風に表記されているように、LTにはある程度の幅があるということも押さえておきましょう。
- LT1 : 血中乳酸濃度2mmol/l
- LT2 : 血中乳酸濃度4mmol/l
ちょっと難しいわ…
そもそも乳酸って何?
「乳酸」が一定以上に溜まると人間の身体は疲労で動かなくなる
乳酸とは、、、
激しい運動をする時に生じる有機化合物。
※ 無酸素運動を行う際、解糖系代謝の結果として生成されます。
のことです。
では、「乳酸が溜まる」と具体的にどうなるのでしょうか?
「乳酸が溜まる」と、どうなるか?
→ 呼吸が苦しくなってきて、身体が思い通りに動かなくなる。
端的に言えば、以上のような感じです。
あなたも
10kmレースを走っている時に、5kmを過ぎたくらいから、身体の動きが鈍り始め、その後みるみるペースダウン…
みたいな経験ありませんか?
このような場合は、あなたはLT値を超えた(乳酸の分解が追いつかない)ランニングペースで走っていると考えられます。
LT値を超えた状態で走り続けると「呼吸が苦しくなり、身体が思い通りに動かなくなってペースを落とさざるを得ない」といった感じです。
ハーフマラソンやマラソンなどの長距離レースを失速せずに走り切るためには、自分の『LT値』を超えないペースで走ることが重要です。
「乳酸=疲労物質」は本当か?
ここまで聞くと「乳酸=疲労物質」と結論付けてしまいそうですが、実は最近の研究結果では、「乳酸=疲労物質」と一概には言えなくなっています。
なぜなら、乳酸はグリコーゲンに再合成されて、エネルギーとして再利用することが出来るからです。
例えば、あなたがちょうどLT値のペースで走っていたとしたら
「若干キツい…でも、ちょっと我慢すれば走り続けられそう…」
「お、意外と走り続けられるぞ…!!」
「あれ、むしろ少しラクになってきた…!?」
という感覚になることがあるでしょう。
これはLT値の強度で走っている際に生成された乳酸が再度エネルギーとして再利用されている状態だと考えられます。
しかし、LT値を超えると、エネルギーの再生産状態は長くは持続しません。
乳酸の分解(エネルギーへの変換作業)が追いつかなくなると、血中乳酸濃度が急上昇し、私たちの身体は疲労で動かなくなります。
要するに、乳酸そのものが疲労の根源というわけではなく、疲労するかどうかは、乳酸を分解処理する能力の良し悪しによって決まるということですね。
マラソン記録向上の為には
『LT値(乳酸性作業閾値)』を向上させるのは必須
LT値が大事っぽいということは何となくわかったけど・・・
『LT値(乳酸性作業閾値)』が向上したらどうなるの?
ここまでの説明を踏まえて、簡単にまとめると
『LT値(乳酸性作業閾値)』が高くなると・・・
ラクに走れる最速ペースが上がる。
= 速いスピードでも維持して走ることができる。
= 要するに、「スピード持久力」が向上する。
という感じです。
『VO2max(最大酸素摂取量)』は「最大スピード」を表しますが、 『LT値(乳酸性作業閾値)』は「スピード持久力」を表します。
「VO2max=最大スピード」を高めつつ、「LT値=スピード持久力」も高めていくことで、「速いペースで走り続けられる力」が養われます。
「最大スピード」「スピード持久力」どちらも長距離走・マラソンにおいては大事ですよね。
だから「マラソンの走力決定3大要素」の一つなんです。
あなたの『LT値(乳酸性作業閾値)』はどれくらい?
LT値とはつまりスピード持久力なんだね。
じゃあ、僕のLT値ってどのくらいなんだろう??
「ダニエルズ理論」によれば、
練習時 : 20〜30分間運動を継続できる強度(ランニングペース)
レース時 : 40〜60分間運動を継続できる強度(ランニングペース)
と言われています。
具体的には、こんな感じ。
【レベル別】LT値 = T(閾値)ペース ってどれくらい?
- サブ2.5ランナー(VDOT67) = 3分21秒 / 1000m
- サブ3.0ランナー(VDOT54) = 4分00秒 / 1000m
- サブ3.5ランナー(VDOT45) = 4分38秒 / 1000m
- サブ4.0ランナー(VDOT38) = 5分19秒 / 1000m
なお、箱根駅伝を走るくらいハイレベルのランナーだと、LT値で走れる時間は60分くらいまで伸びていきます。
なので、彼らはLT値のペースはハーフマラソンのレースペースが目安になります。
ちなみに、僕の現状のLT値は大体、3分15秒/kmくらいです。
「このくらいのペースなら練習時でも20〜30分間走れるかなぁ」という感じで推測しています。
『LT値(乳酸性作業閾値)』を
向上させる為の具体的な練習は?
『LT値(乳酸性作業閾値)』を向上させるには、どうすれば良いの?
具体的にどんな練習をすれば良いの?
では、『LT値(乳酸性作業閾値)』を向上させる為には具体的にどういう練習をすれば良いのか? ということについて。
「ダニエルズ理論」によれば、以下のトレーニングが有効とされています。
- 20〜30分間走 (テンポ走)
- クルーズインターバル 【オススメ】
20〜30分間走 (テンポ走)
1つ目は「20〜30分間走 (テンポ走)」
20〜30分間走 (テンポ走)
*P(ペース) : LT = T(閾値)ペース
※距離にすると、4000m~6000m走 (上級者は8000m)
20〜30分間走をT(閾値)ペースで実施します。
「T(閾値)ペース」とは「LT値と同等のペース」です。
LT値とは“20~30分間継続できるくらいのペース”なのだから、
「実際に20〜30分間走っちゃえばいいじゃん!」という凄くシンプルな考え方ですね。
なお、T(閾値)ペースはランナーのレベルによって違いますので、以下を参照。
【レベル別】LT値 = T(閾値)ペース ってどれくらい?
- サブ2.5ランナー(VDOT67) = 3分21秒 / 1000m
- サブ3.0ランナー(VDOT54) = 4分00秒 / 1000m
- サブ3.5ランナー(VDOT45) = 4分38秒 / 1000m
- サブ4.0ランナー(VDOT38) = 5分19秒 / 1000m
しかし、20〜30分間走は、普段の練習で取り入れるには強度が高すぎるかもしれません。
なので、もう少しハードルの低いやり方としては、20〜30分間走の中でペースを変化させるのもアリです。
例えば、、、
・前半10〜15分間は、LT1(Tペースより5秒/kほど遅いペース)で走る。
・後半10〜15分間は、LT2(Tペース)で走る。
といったように、現実的に取り組みやすいように各自調整するといいと思います。
クルーズインターバル
クルーズインターバル【オススメ】
*P(ペース) : LT = T(閾値)ペース
「それでもやっぱり1発勝負で20分間走はシンドイかもな・・・」 という場合は「クルーズインターバル」というやり方も有効です。
上原個人的には、この「クルーズインターバル」の方がおすすめ。
※クルーズ=巡航
「LT値=T(閾値)ペース」のランニングを繰り返すトレーニング
「インターバル」というのはご存知の方も多いと思います。速いランニングと遅いランニングを繰り返すトレーニングですね。
「クルーズインターバル」は、インターバルの一種です。
「20分間ぶっ続けでT(閾値)ペースで走れ」と言われればシンドイですが、インターバルという手法で短い休息を挟むことで、T(閾値)ペースで走る総距離を増やすことが容易になります。
これが、僕が「クルーズインターバル」をオススメする理由です。
「クルーズインターバル」では、例えば以下のように距離や本数を設定します。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
■1km × 7〜10本
*P(ペース) : LT = T(閾値)ペース
*R(リカバリー) : 90〜120秒ジョグ
■2km × 3〜5本
*P(ペース) : LT = T(閾値)ペース
*R(リカバリー) : 3〜5分ジョグ
■3km × 2〜3本
*P(ペース) : LT = T(閾値)ペース
*R(リカバリー) : 5~6分ジョグ
『LT値 (乳酸性作業閾値)』を向上させるには、
LT値ペース(Tペース)で走る総距離を増やす。
前回の講座では、『VO2max (最大酸素摂取量)』つまり「最大スピード」を養成する練習メニュ ーの例として「1000m×5本」や「400m×10~15本」を紹介しました。
それらの練習に比べると、「クルーズインターバル」は反復回数が多くなっています。
しかし、設定ペースはVO2max=I(インターバル)ペースよりもやや遅いLT=T(閾値)ペースで行います。
■1km × 7〜10本 → LT=T(閾値)ペース走行距離トータル : 7〜10km
■2km × 3〜5本 → LT=T(閾値)ペース走行距離トータル : 6〜10km
■3km × 2〜3本 → LT=T(閾値)ペース走行距離トータル : 6〜9km
つまり、設定ペースをやや落として、その代わりにトータルのT(閾値)ペース走行距離を増やすということです。
ただし、「クルーズインターバル」1回の実施においてT(閾値)ペースで走る総距離は10kmを上限にしておきましょう。
これ以上走るとややオーバートレーニング気味です。怪我のリスクも高まりますので要注意です。
◆まとめ◆
『LT値(乳酸性作業閾値)』
- 体内の血中乳酸濃度が急上昇するポイントで、このポイントを超えると乳酸が一気に蓄積し呼吸が苦しくなり始め、身体が思い通りに動かなくなってくる。
マラソンの走力を決定する3大要素の一つ。 - LT値とは、
・練習時で20〜30分間継続できるランニングペース
・練習時で40〜60分間継続できるランニングペース - LT値が向上すると、“ラクに走れる最速ペース”が上がる。
→ “スピード持久力”が向上する。 - LT値を向上させるのに有効な具体的な練習は
●20〜30分間走 (テンポ走)
●クルーズインターバル
それでは。
あなたのランニングライフがより充実したものになることを心より願っています。
ぼっちランナーズ【BRC】
代表 上原一真
■マラソンの走力を決定する3大要素
まとめ記事:
マラソンの走力を向上させる3大要素とは?【トレーニングの本質】
詳細記事:
- 【マラソン】VO2max(最大酸素摂取量)とは?具体的なトレーニング方法も解説
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- 【マラソン】ランニングエコノミー(経済性)とは?具体的なトレーニング方法も解説