トレーニングの3原理+5原則|ぼっちランナーズ【BRC】

トレーニングの3原理+5原則

上原 一真

「解体新書」#05

さて、いきなりですがマラソンランナーの皆さんに質問です。 「人はどうやって走るのが速くなるのでしょうか?」

マラソン練習を始める前に、まずはここを理解しておきたいですね。 全てのマラソン練習の根本。ここを押さえておくのとおかないのとでは、天と地ほどの差があり ます。だって、自分が速くなるためのメカニズムなわけですから。


この【トレーニングの3原理+5原則】を知らずにマラソンの練習をするということはすなわち、 何の効果があるか分からない薬を用法・容量も守らず飲み続けるようなものです。

そのトレーニングがあなたの身体にどんな影響を及ぼすのか。

これを理解して練習することで、効率良く、走力をアップさせることができます。これは小手先の テクニックではなく、原則的な話。マラソン練習に限った話ではなく、トレーニング全般に共通 する話ですね。

※人によっては『トレーニングの7原則』とか『トレーニングの8原則』と呼ぶ場合もあります が、どれも内容に違いはほとんどありません。 とりあえず、ここでは『トレーニングの3原理+5原則』という形で説明を進めていきます。

【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」 ■「原理」と「原則」の定義

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げんり【原理】

事象やそれについての認識を成り立たせる、根本となるしくみ。

大辞林 第三版 より引用

げんそく【原則】

人間の社会的活動の中で、多くの場合にあてはまる基本的な規則や法則。

– 大辞林 第三版 より引用

まあほとんど同じ意味なのでそこまで気にしなくてOK!

■トレーニングの3原理

では、まず『トレーニングの3原理』から。

1特異性の原理 (SAIDの原理)

「特異性の原理」とは・・・ 「トレーニングした部位(内容)に対して、トレーニングの効果がでますよ」というもの。 ※SAID (Specific Adaptation to Imposed Demands)

もの凄く、当たり前なことですね。速く走る練習(トレーニング)をするから、速く走れるようにな るわけです。走る練習をすると、ハンマー投げが上達するなんてことはありません。


人間の身体は与えられた刺激に対して、特異的に反応します。

水泳の選手は水泳に使う部位を鍛えるので、肩幅が広くなり水泳選手らしい身体つきになりま す。マラソン選手はマラソンに使う部位を鍛えるので、脚力がつき脂肪は削ぎ落されマラソン選 手らしい身体つきになります。

そういう当たり前のこと。まさに「原理」ですね。
マラソンで速く走りたいなら、マラソンで速く走れるような練習をしましょう!

2過負荷の原理

「過負荷の原理」とは・・・ 「現状の能力に対してより高い負荷をかけることで、能力が向上しますよ」というもの。

つまり、キツいと感じるトレーニングをすることで、あなたの能力は伸びていくということです
ね。

【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」 3/6ページ

もしAさんがマラソン3時間30分で走る力を持っていて、次は3時間を切りたいと考えているとし ます。それなのに、Aさんがフルマラソン4時間レベルの負荷の練習をずっとしていては、Aさんは いつまで経っても3時間切りを達成できません。

当たり前ですが、3時間切りを目指しているAさんにとって4時間レベルの負荷は低すぎるので す。これは、東大合格を目指しているのに掛け算の九九をずっと勉強しているのと、本質的には同 じですね。

つまり、あなたが目指すレベルに応じた負荷をあなたの身体に与えなければいけません。

3可逆性の原理

「可逆性の原理」とは・・・

「トレーニングによって向上させたあなたの能力は、刺激を与え続けなければ(トレーニングをし 続けなければ)、元に戻っちゃいますよ」というもの。

当たり前のことですが、なかなか辛辣ですよね。 でも、これも歴然たる事実であり「原理」なのです。事実として、直視しましょう。

例えば、あなたが必死に練習をしてサブ3を達成したとします。ところが、それから全く練習をし なければどうなるでしょうか? もちろん、あなたの走力は低下していき、以前と同じレベルではパフォーマンスを発揮できなく なってしまいます。

トレーニングによって獲得した能力は、絶対的なものではなくトレーニングを中断すれば失われ ていく(元の状態に戻っていく)ものということですね。

■トレーニングの5原則 続いて、『トレーニングの5原則』です。

1意識性の原則

「意識性の原則」とは・・・ 「今、このトレーニングで、自分の身体のどの機能を鍛えているのか意識しましょう」というも の。

ある程度マラソンの練習をしたことがある人なら、きっと一度は言われたことがあるかもしれま
せん。
「なぜこの練習をするのか、その意味を考えて練習しよう」

【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」 4/6ページ

マラソン練習のバイブル『ダニエルズのランニング・フォーミュラ』の著者であるジャック・ダニ エルズも繰り返し以下の言葉を述べています。

月並みな言葉ですが、本当にそうなんです。指導者から一方的に支持された練習を受動的にこなす だけでは練習の効果は半減します。ましてや、ただ他人からやらされて、嫌々やるなんて最悪で す。何よりそんなの走っていて楽しくない。

僕はマラソンは自分で主体的に考えて走るからこそ楽しいのだと思うのですが、みなさんどうで しょうか?

2全面性の原則

「全面性の原則」とは・・・ 「トレーニングする時は、身体の各機能をバランス良く鍛えましょう」というもの。


もちろん、取り組む種目によってトレーニング内容は専門化されていきますが、それでも自分の 身体を多面的に見てバランス良く鍛えていくことは大事です。

例えば、毎日毎日同じようにスピードを最大限に出して走る練習ばかりしていてはどうなるでしょ うか?

それでは、身体の同じ部分を何度も何度も酷使することによって、怪我のリスクが高まってしま います。また、スピードは身に付いてもスタミナが身に付かず、フルマラソンでは後半までスタミ ナが持ちません。

練習メニューを作成するときは、マラソンに必要な体力やスキルを細分化して、

「この日は長い距離をゆっくり走る練習をすることで、スタミナを養成する」 「この日は短い距離を速く走る練習をすることで、スピードを養成する」

など、バランスをとっていくことが重要です。

3個別性の原則

「個別性の原則」とは・・・ 「トレーニングをする人自身の状況に応じたトレーニング内容で鍛えましょう」というもの。

具体的には、
・年齢・性別・体格・経験・技術・健康状態などなど。
「この練習の目的は何か?」と問われたら、それに対して常に答を出せなければならない。

『ダニエルズのランニング・フォーミュラ 第3版』より引用

【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」 5/6ページ

人それぞれで状況・条件は違うので、それを考慮したトレーニング強度やトレーニング内容を考 えましょう。

万人にとって正解のトレーニング方法はありません。厳しく聞こえるかもしれませんが、最終的 には自分に合ったトレーニングを自分で探し出していくしかありません。

4漸進性の原則

「漸進性の原則」とは・・・ 「トレーニングの量や強度は、段階的に増やしていきましょう」というもの。

人間の身体はトレーニング刺激に対して徐々に慣れていき、強化されます。

「徐々に」というのがポイントで、一気にトレーニング刺激(負荷)を高めてしまうと、それは過剰 な負荷となり、適切なトレーニング効果が得られません。『過負荷の原理』によって、トレーニ ングにおいてある程度の負荷は必須ですが、負荷は高ければ高いほど良いというものではないの です。

トレーニングメニューを作成する際は、トレーニングの量・強度・頻度を段階的に引き上げていく ように設定しましょう。

マラソン練習で言えば、

これらを上手く調整していくことが大事です。

5反復性(継続性)の原則

「反復性(継続性)の原則」とは・・・ 「何度も繰り返しトレーニングすることで、身体は鍛えられる」というもの。

まさに“継続は力なり”。

マラソンのトップ選手でもこの“継続することの重要性”を解く人は多いです。フルマラソン元日本 記録保持者の大迫傑選手もTwitterで以下のように語っていました。


●量・・・走行距離や走行時間
●強度・・・走行スピード
●頻度・・・週〇回の練習
●休息・・・インターバルトレーニング等における休息時間

単純で当たり前の事を、妥協なく継続していく事の難しさ、その重要さを今回学んでいます。

̶ suguru osako (@sugurusako) February 20, 2019

Twitter より引用

【BRC】マラソン完全攻略「解体新書」 6/6ページ

そして、これは単なる精神論ではなく、人間の生理機能がトレーニングの反復によってその負荷に 順応していくということでもあります。

神経系、筋系、骨格系といった運動連鎖システム(キネティックチェーン)やミトコンドリアなどの エネルギー発生システムもトレーニングの反復によってその機能が向上します。

マラソン練習においても同じです。せっかく良い練習をしても、その後で良い練習を継続しなけれ ば体力は衰えます。『可逆性の原理』に通じますね。1回の良い練習をこなしただけで「はい、終 わり!」と満足してはいけないわけです。

まとめ

■トレーニングの3原理■

1特異性の原理 (SAIDの原理)

2過負荷の原理

3可逆性の原則

■トレーニングの5原則■

1意識性の原則
2全面性の原則
3個別性の原則
4漸進性の原則
5反復性の原則


 これはマラソン練習で言い換えるならば「走力がアップする仕組み」ですね。


冒頭でも述べましたが、これらのトレーニングの仕組みをしっかり理解してマラソン練習に取り 組むことで練習効果は飛躍的にアップします。


すべてのマラソン練習をする際に押さえておきましょう。

ABOUT ME
上原 一真
上原 一真
ランニングコーチ / ぼっちランナーズクラブ【BRC】代表
株式会社SmilesMiles 代表取締役 1992年生まれ、鹿児島県出身。 2005年、中学時代より走り始めランニング歴は17年以上。 1500m~5000mなどのトラック競技から100kmを超えるウルトラマラソン, トレイルランニング, 駅伝など幅広く嗜む。フルマラソンの自己ベストは、2時間34分16秒 (2021年)。 2015年から市民ランナー向けにランニングの指導を始め、サブ4~サブ2時間40分まで様々なレベルの市民ランナーの自己ベスト達成をサポートしてきた。 現在は、オンラインランニングクラブ【ぼっちランナーズ / BRC】を主宰。 「ひとりで頑張るランナーに、もっと強くなるきっかけを与え、自己重要感が高まるランニングを楽しんでもらう」をテーマとして指導に力を入れている。
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