【トレーニングの3原理と5原則】をマラソン・ランニングに当てはめて解説します
マラソンでは、「トレーニングの原理原則」の理解が大事。
あなたもどこかで一度は聞いたことがあるフレーズかもしれません。
しかし、実際に「トレーニングの原理原則」を意識してトレーニングできている市民ランナーは案外少ないです。
「トレーニングの原理原則」と言われても、いまいちピンと来ないんだよなぁ…本当にそんなに重要なの?
マラソン練習を本格的に始めてみたいけど、難しい理論はサッパリ分からないわ…初心者の私でも分かるように教えて。
本記事はこのように感じている方向けです。
結論、
「トレーニングの原理原則」は、マラソン練習に取り組む場合でもめちゃくちゃ有効です。
原理原則というのは、「言われてみれば当たり前」の理論すぎて、あまり語られることがありません。
ですが、実際に「トレーニングの原理原則」はめちゃくちゃ有効ですし、ここを軽視してしまってはトレーニングの効果が半減するといっても過言ではありません。
効果的なマラソントレーニングを遂行する上では、「トレーニングの原理原則」の理解は必須です。
とはいえ、「トレーニングの原理原則」が何となく掴みにくい印象があるのも事実。
その原因は、
「トレーニングの原理原則」を「マラソン」「ランニング」に当てはめて解説している人が少ないから
だと僕は考えています。
なので、本記事では、
- 「トレーニングの原理原則」の重要性を
- 「マラソン」「ランニング」に当てはめて
- 具体例とともに解説します。
本記事を読んで、常に立ち戻るべき「原理原則」を理解すれば、あなたも日々のマラソントレーニングに迷いなく取り組むことができるようになるでしょう。
・ランニング歴20年以上
・ランニング指導歴10年以上
・指導累計600名以上
多くの市民ランナーをマラソン・サブ4〜サブ3に導いてきた僕が解説します。
「トレーニングの原理原則」の重要性
はじめに、一応「原理原則」の定義を確認しておきましょう。
■げんり【原理】
1 事物・事象が依拠する根本法則。基本法則。「てこの原理」「民主主義の原理」
2 哲学で、他のものを規定するが、それ自身は他に依存しない根本的、根源的なもの。
(デジタル大辞泉/コトバンク より引用)
■げんそく【原則】
多くの場合に共通に適用される基本的なきまり・法則。「原則を立てる」「原則
から外れる」「原則として部外者の立ち入りを禁止する」
(デジタル大辞泉/コトバンク より引用)
つまり、「マラソントレーニングの原理原則」とは、「人間はどうやったら速く走れるようになるのか」という仕組みそのものと言っても良いでしょう。
マラソントレーニングに取り組む人であれば全員、この根本を理解する必要があります。
なぜなら、あなたが速くなるための仕組み(メカニズム)だから。
「トレーニングの原理原則」を知らずにマラソンの練習をするということはすなわち、 何の効果があるか分からない薬を用法・容量も守らず飲み続けるようなものです。
そのトレーニングが、あなたの身体にどんな影響を及ぼすのか。
ここを理解して練習することで、あなたも効率良く走力をアップさせることができます。
シューズがどうとかサプリメントがどうとかそんな枝葉の話より何十倍も大事な話です。
トレーニングの3原理と5原則
トレーニングの原理原則は「3つの原理」と「5つの原則」があります。
これはマラソントレーニングに限らず、筋トレや他のスポーツでも共通する原理原則です。
「トレーニングの3原理と5原則」は以下の通り。
それぞれを見ていきましょう。
トレーニング原理①: 特異性の原理
「特異性(SAID)の原理」とは、
トレーニングの効果は、トレーニングした部位・内容に対して特異的に現れる
※SAID (Specific Adaptation to Imposed Demands)
というもの。
人間の身体は与えられた刺激に対して特異的に反応します。
つまり、速く走る練習(トレーニング)をするから、速く走れるようになるわけです。
走る練習をすることで、ハンマー投げが上達するなんてことはありません。
とても当たり前の話ですね。
例えば、、、
- 水泳選手
→ 肩幅が広くなり、胸回りも大きくなる。水中での浮力を維持するため若干の脂肪がつく。 - 短距離選手
→ 上半身・下半身共に速筋繊維が発達し、大柄な体格になる。 - 長距離・マラソン選手
→ 主に下半身の遅筋繊維が発達し、細くしなやかな脚になる。上半身の筋肉はあまりつかない。
「どのスポーツに特化するか」によって、トレーニングの種類は変わってきます。
その結果として、体格(体つき)もそのスポーツ特有のものになっていくのです。
本当に「特異的なトレーニング」ができていますか?
ここまで聞いて「なんだ、当たり前のことじゃん」と思ったかもしれませんが、実際のところ、「トレーニングの特異性」を日々の練習に落とし込めていない人は案外多いです。
例えば、マラソンに向けたトレーニングをしているにも関わらず、「自分の好きな練習だから」「自分の得意な練習だから」という理由だけで、いつも「400mのインターバル」などといったスピード練習ばかりしてしまう人がいます。
確かに「400mのインターバル」は、それはそれで有効な練習ですが、「42.195km走り続ける」というマラソン競技においては、距離もペースも全く違います。
そういう意味では、「400mのインターバル」は、あまりマラソントレーニングに特異的な練習とは言えません。
マラソンに特異的なトレーニングとは、例えば「30kmペース走」や「14kmM(マラソン)ペース走」などです。
これらの練習の方が、距離やペースがマラソンという競技に近く、より実戦的・特異的な練習と言えます。
Aというトレーニングをすれば、Aという効果が出る。
Bというトレーニングをすれば、Bという効果が出る。
Cというトレーニングをすれば、Cという効果が出る。
そんな当たり前のことですが、ここをどれだけ明瞭に意識できるかが、マラソントレーニング全体の質を大きく左右します。
マラソンで速く走りたいなら、マラソンで速く走れるような練習をしましょう。
トレーニング原理②: 過負荷の原理
「過負荷の原理」とは、
現状の能力よりも高い負荷をかけることで、能力が向上する
というもの。
平たく言うと、多少キツいと感じるトレーニングをすることで、あなたの能力は伸びていくということ。
逆に言えば、全くキツいと感じることがないトレーニングを延々と続けていても、あなたの能力は向上しないということですね。
例えば、フルマラソンを3時間20分程度で走る力を持っているAさんがいたとします。
そして、Aさんは、次はマラソンで3時間を切りたいと考えています。
しかし、Aさんはいつもフルマラソン3時間20〜30分程度(現状のレベル)の負荷の練習しかしていません。
これでは、Aさんはいつまで経っても3時間切りを達成できませんよね。
当たり前ですが、フルマラソンで3時間切りを目指すならば、フルマラソンで3時間が切れるレベルの練習をしなければいけません。
Aさんにとって3時間20〜30分のレベルの負荷は現状と同じ。
Aさんがそこからさらに上のレベルであるサブ3を目指すのであれば、「現状よりも高い負荷をかける」必要があります。
今の自分が「少しキツいな」「少ししんどいな」「もうちょっと頑張らないとできないな」というくらいの負荷があるトレーニングをすることで、自分のレベルが少しずつ上がっていく。
これが「過負荷の原理」です。
ずっと同じ内容のトレーニングをするのではなく、少しずつ負荷を高めていく意識を持ちましょう。
トレーニング原理③: 可逆性の原理
「可逆性の原理」とは、
トレーニングによって向上させた能力は、刺激を与え続けなければ(トレーニングをし続けなければ)元のレベルに戻ってしまう
というもの。
一度向上させた体力(競技力)も、その後練習をサボってしまったら、その体力(競技力)は維持できません。
例えば、あなたが必死に練習をしてサブ3のレベルに達したとします。
ところが、それから3ヶ月間全く練習をしなければどうなるでしょうか?
もちろん、あなたの走力は著しく低下し、以前と同じレベル(フルマラソン サブ3レベル)ではパフォーマンスを発揮できなくなってしまいます。
トレーニングによって獲得した能力は絶対的なものではなく、トレーニングを中断すれば失われ ていく(元の状態に戻っていく)ということですね。
なかなか辛辣ですが、これは歴然たる事実として直視しなければいけません。
トレーニング原則①: 意識性の原則
「意識性の原則」とは、
今このトレーニングで、自分の身体のどの機能を鍛えているのか意識することでトレーニングの効果が高まる
というもの。
月並みな言葉ですが、「なぜこの練習をするのか、その意味を考えなさい」ということです。
マラソン練習のバイブル『ダニエルズのランニング・フォーミュラ』の著者であるジャック・ダニエルズも繰り返し以下の言葉を述べています。
「この練習の目的は何か?」と問われたら、それに対して常に答を出せなければならない。
「マラソン」「ランニング」で例えてみるとこんな感じ。
- 「400m×15 VO2max インターバル」の目的
– VO2max(最大酸素摂取量)の向上
– 有酸素的最大スピードの強化
– 大きくて素早いランニングフォームの習得 - 「2000m×3 LT インターバル」の目的
– LT値(乳酸性作業閾値)の向上
– スピード持久力の強化
– ランニングエコノミーの向上 - 「14km Mペース走」の目的
– 現状のM(マラソン)ペースの確認
– 目標のM(マラソン)ペースとのギャップの確認
– M(マラソン)ペースにおけるリズムの確認 - 「30km ビルドアップ走」の目的
– 30km以上の距離を走り続けるための脚筋持久力の強化
– ペースコントロール力の強化
– 各ペースにおける余裕度の確認
– ラスト5kmのM(マラソン)ペースを適切な余裕度で走れるか確認
などなど。
一つ一つのトレーニングに対して、明確な目的意識を持って取り組むことが重要です。
指導者から一方的に支持された練習を受動的にこなすだけでは、その練習の効果は半減してしまいます。
その練習を実行する本人自身がトレーニングの目的を理解し、その目的通りに練習することで、トレーニングの効果は飛躍的に高まるのです。
同じ練習をしていても、「明確な目的意識を持って取り組めているかどうか」で、そのトレーニング効果には大きな差が出ます。
トレーニング原則②: 全面性の原則
「全面性の原則」とは、
トレーニングする時は、身体の各機能(能力)をバランス良く鍛えることが大事
というもの。
あなたが取り組む種目によってトレーニング内容は専門化されていきますが、それでも自分の 身体を多面的に見てバランス良く鍛えていくことは大事です。
例えば、毎日毎日同じようにスピードを最大限に出して走る練習ばかりしていてはどうなるでしょうか?
それでは、身体の同じ部分を何度も何度も酷使することによって、怪我のリスクが高まってしまいます。
また、スピードは身に付いてもスタミナが身に付かず、フルマラソンでは後半までスタミナが持ちません。
トレーニング計画を立てるときは、マラソンに必要な体力やスキルを細分化して、
- 今日は、短い距離を速く走る練習をすることで、スピードを養成する
- 明日は、軽めのジョグで、疲労を抜ききつつ体力を落とさないようにする
- 明後日は、長い距離をゆっくり走る練習をすることで、スタミナを養成する
など、すべての部位・能力をバランス良く鍛えていくことが重要です。
自分の好みや得意分野に偏ったトレーニングをしないように!
トレーンニング原則③: 個別性の原則
「個別性の原則」とは、
トレーニングの内容は、個人個人に最適されなければいけない
というもの。
世の中にはあれやこれやといろんなマラソン練習メニューが紹介されていますが、万人にとって正解のトレーニング方法はありません。
なぜなら、人それぞれで状況・条件は違うからです。
具体的には、
- 年齢
- 性別
- 体格
- 経験
- 技術
- 健康状態
- ライフスタイル
- 練習環境
などなど。
これらの個別の状況を考慮したトレーニング負荷やトレーニング内容を考える必要があります。
マラソントレーニングの基本理論など大枠を理解することはもちろん大事ですが、それらの基本を踏まえた上で、「自分の状況に最適化されたトレーニング」とはどのようなものなのかよく考えましょう。
「自分に合ったトレーニング」は、最終的に自分で探し出していくしかありません。
トレーニング原則④: 漸進性の原則
「漸進性の原則」とは、
トレーニングの負荷(量・強度・頻度)は、段階的(漸進的)に増やしていかなければいけない
というもの。
人間の身体はトレーニング刺激に対して、徐々に慣れていき、強化されます。
「徐々に」というのがポイントで、一気にトレーニング刺激(負荷)を高めてしまうと、それは過剰な負荷となり、適切なトレーニング効果が得られません。
それどころか、過剰なトレーニング負荷(オーバートレーニング)は、怪我や故障のリスクを顕著に高めてしまいます。
怪我や故障、オーバートレーニングによる長期的な不調は、マラソントレーニングにおいて最も避けなければいけないものです。
「過負荷の原理」で解説した通り、トレーニングにおいてある程度の負荷をかけることは必須ですが、その負荷は高ければ高いほど良いというものではないのです。
マラソン練習メニューを作成する際は、トレーニングの負荷(量・強度・頻度)を段階的に引き上げていくように設定しましょう。
マラソン練習で言えば、以下のような感じ。
「週間走行距離」を段階的(漸進的)に引き上げる
- 1〜4週目 : 週間走行距離20〜25km
- 5〜8週目 : 週間走行距離25〜30km
- 9〜12週目 : 週間走行距離30〜35km
- 13〜16週目 : 週間走行距離35〜40km
- 17〜20週目 : 週間走行距離40〜50km
「M(マラソン)ペース走」の設定ペースを段階的(漸進的)に引き上げる
- 1〜4週目 : M(マラソンペース) = 5:00/k
- 5〜8週目 : M(マラソンペース) = 4:55/k
- 9〜12週目 : M(マラソンペース) = 4:50/k
- 13〜16週目 : M(マラソンペース) = 4:45/k
- 17〜20週目 : M(マラソンペース) = 4:40/k
例A: 「週間のランニングの頻度」を段階的(漸進的)に引き上げる
- 1〜8週目 : 週3回のランニング
- 9〜16週目 : 週4回のランニング
- 17〜24週目 : 週5回のランニング
例B: 「400mインターバルの反復回数」を段階的(漸進的)に引き上げる
- 1〜4週目 : 400m×8
- 5〜8週目 : 400m×10
- 9〜12週目 : 400m×12
- 13〜16週目 : 400m×14
- 17〜20週目 : 400m×15
このように「トレーニング負荷」を少しずつ高めていくことによって、怪我なく無理なくあなたの走力を堅実的に向上させることができます。
成長を焦らないこと。
必ず「一段一段ずつ階段を登る」ようにしてください。
トレーニング原則⑤: 反復性(継続性)の原則
反復性(継続性)の原則とは、
何度も繰り返しトレーニングすることで、身体能力は向上する
というもの。
まさに“継続は力なり”。
マラソンのトップ選手でもこの“継続することの重要性”を解く人は多いです。
フルマラソン元日本記録保持者の大迫傑選手もX(旧Twitter)で以下のように語っていました。
単純で当たり前の事を、妥協なく継続していく事の難しさ、その重要さを今回学んでいます。
– suguru osako (@sugurusako) February 20, 2019
(X: 旧Twitter より引用)
「継続が大事」というのは、単なる精神論ではありません。
人間の生理機能的な側面から見ても、トレーニングの反復によってその負荷に順応していくということが分かっています。
例えば、神経系、筋系、骨格系といった運動連鎖システム(キネティックチェーン)やミトコンドリアなどのエネルギー発生システムもトレーニングの反復によってその機能が向上します。
これはマラソン練習においても同じです。
例えば、
■ランニングフォーム習得の例
→ランニングフォームの改善指導を受けて、最初は動きがぎこちなかったが、何度もその動きを繰り返していくうちに、何も考えなくても身体がスムーズに動くようになってきた。
■心肺機能向上の例
→初めてVO2maxインターバル(400m×15や1000m×5など)を実施したときは心臓も呼吸も苦しかったが、数ヶ月かけて何度もVO2maxインターバルをこなしていく内に同じペースで走っていても心臓や呼吸が苦しくなくなってきた。
■脚筋持久力向上の例
→初めて2時間LSD(ゆっくり長く走るトレーニング)を実施したときは、最後の30分は脚が棒のようになって重い足取りになってしまったが、数ヶ月かけて何度も2時間LSDをこなしていく内に最後まで脚が重くなることなく軽快に走れるようになってきた。
などといったように、継続的にトレーニングをこなしていくことによって、あなたの身体はそのトレーニング刺激に順応し強化されていきます。
逆に、せっかく良い練習をしても、その後も良い練習を継続しなければ体力は衰えます。
これは「可逆性の原理」にも通じますね。
1回良い練習をこなしただけで満足しないように。
「その後のトレーニングとのつながり」を意識して、長期的に自分の能力を向上させていきましょう。
まとめ
トレーニングの3原理と5原則
最後にまとめると、「トレーニングの3原理と5原則」は以下の通り。
これらの原理原則は、マラソン以外のありとあらゆるスポーツでも共通しています。
マラソントレーニングに当てはめて考えると、これらの原理原則は、「あなたの走力がアップする仕組み(メカニズム)」と言っても良いでしょう。
仕組み(メカニズム)を理解すれば、その仕組み(メカニズム)に沿ってトレーニングを攻略するだけ。
冒頭でも述べましたが、これらのトレーニングの仕組み(メカニズム)をちゃんと理解してマラソン練習に取り組めばトレーニングの効果は飛躍的に向上します。
闇雲にトレーニングするのではなく、仕組み(メカニズム)に沿って、正しく効率的なトレーニングを行いましょう。
それでは。
あなたのランニングライフがより充実したものになることを心より願っています。
ぼっちランナーズ【BRC】
代表 上原一真
各原理原則についての詳細記事もありますので、それぞれ細かく学びたい方は以下の記事もご覧ください。